血友病とは?
一覧はこちら「手術によって仕事人生を全うすることができた」〜人工関節置換術を受けた血友病患者の体験談
血友病患者と血友病保因者を支援するはばたき福祉事業団です。
今回は、関節の痛みを抱えている血友病患者にとって治療の選択肢の一つとなる「人工関節置換手術」について、体験者のお話をもとにご紹介していきたいと思います。
手術に踏み切ったきっかけや手術後の生活の変化などのほかに、お仕事と手術の両立で気をつけたいことなど、今後手術を考えられている方にとって役に立つ具体的な情報もお伝えします。ぜひ最後までお読みください。
-これまでの手術歴を教えてください。
私はこれまでに複数箇所の人工関節置換手術を受けております。最初の手術は2001年の夏に受けた左股関節の人工関節置換手術でした。退院前日にちょうど911のテロがあったので、当時の様子は鮮明に覚えています。それから数年おきに両膝、左肘、そして右股関節と手術を受けました。最後の手術が2年前だったので、約20年の間に5箇所の人工関節置換手術を受けたことになります。
-最初の手術に踏み切ったきっかけは?
やはり、痛みですね。
歩くことが痛くて、杖を使っての活動では、仕事にも日常生活にも支障をきたすようになってきたからです。最初の手術をしたときは48歳で仕事盛りだったので、仕事を続けていく上でも手術することが最善の選択だと思いました。当時は血友病患者の人工関節置換手術は前例が少ないので、手術に踏み切るには自分自身にも執刀するお医者様にも覚悟がいりました。自分もインターネットなどで情報収集をしましたが、お医者様も手術に向けて相当勉強する必要があったと思います。とにかく、手術をすることが一大事でした。
-手術をすることはご自身の判断で決めたのですか?
はい。かかりつけ医の勧めなどではなく、自分で決めました。
私のかかりつけ医は国立国際医療センター病院のACCの先生だったので、同病院で手術を受けるために整形外科の人工関節置換手術の専門の先生を紹介していただきました。国立国際医療センターで血友病患者の人工関節置換手術は初めてだったので、先生も慎重になっていたことから手術の実現までには時間を要しました。結局、手術の申し出をしてから実際に手術をするまでに2年くらいは病院に通いました。
-手術前に特に心配だったことはありますか?
調べに調べ抜いて覚悟を決めてから手術に臨んだのですが、心配や不安は当然のようにありました。やはり、感染症が一番の懸念点でした。また、人工関節は摩耗で10年位で再置換しなければとの不安もありました。もちろん病院側としては万全の感染対策をとっているのですが、万が一のこともあります。国立国際医療センター病院では、当時も感染症のリスクはほとんどないと言われていますが、最初の手術は20年以上前だったので正直不安がなかったとは言えません。
それから、当時の人工股関節置換手術では、股関節にネジをさして固定(現在の術式はねじで骨盤に固定をしません)するのですが、それが年月とともに緩んでくることもあります。実際に私の知人でも術後に緩んできて再び手術になってしまった人がいました。幸いなことに私は感染症にもならず、また術後20年以上経った今も緩む、人工関節の摩耗が少なく、不具合もないので、本当によかったなと思っています。現在は、人工関節の素材の進歩と血友病患者は運動量が比較的に少ないので、摩耗による再置換手術しないで済むと思います。
-左肘の人工関節置換手術もされているとのことですが、どのような経緯で手術をやることになったのですか?
私の場合は肘の出血を繰り返していたことにより骨が溶けてしまっていたのです。どういうことかと言うと、関節の内部、軟骨よりもさらに内側の部分が溶けて空洞化していて、放っておくと骨折する可能性がありました。そこで、手術をすることになったのです。
手術に向けて入念な計画を立て、先生にも勉強をしてもらったのですが、なんと手術の予定日よりも前に私が転倒して左肘を骨折してしまいまして急遽予定を3か月早めて手術をすることになりました。肘の人工関節置換手術はあまり前例のないケースなので、先生は念のために大小2つの人工関節を準備していたそうです。手術では小さい方を使用しましたが、それが幸い私に合っていたのか、その後不具合も起きずに使い続けて今に至っています。
-手術後の違和感などは?痛みなどは?
痛みも違和感もないです。
ただ、膝に関してはもともとの可動域が狭かったので、手術をしても曲げられる角度に限界がありました。それは仕方ないことです。だから座るときなどは足を伸ばして座りますが、日常生活で不便を感じるほどではないですね。
-手術をするにあたって気をつけたいことは?
人工関節置換手術は簡単な手術ではないので入院と自宅療養が長期化します。手術、そしてその後のリハビリも含めると約1ヶ月近く入院することになる。自宅での生活リハビリで1ヶ月療養が必要です。お仕事をされている方でしたら職場の理解を得ることが必要不可欠かと思います。
しかし、内臓疾患の手術と違って人工関節置換手術は緊急性が高いものではないので、手術をする時期をある程度は自由に設定できます。私は職場の繁忙期を避けて手術日を決めましたが、やはり2〜3ヶ月抜けるとなると周囲にそれなりの負担が生じてしまいますよね。
私の場合は自分の病気のことを早々に職場に周知させていたので、手術に関しては一定の理解を得てはいましたが、手術に向けての段取りや入院期間中の仕事の引き継ぎなどは入念に行い、職場には極力迷惑をかけないようにできる限りの対策をしました。
それから、手術をした病院には術後も定期的に通うことになるので、できれば近場の信頼できる病院を選ぶと良いかと思います。術後の経過観察や定期的な検査など、それこそ一生その病院とは付き合うことになるので、そのことは念頭において病院選びをするといいと思いますよ。
-手術をして一番良かったことは?
痛みが取れて、社会生活で普通に動けるようになったことですね。
どこかに行くにしても、人と会うにしても、身体的な理由で躊躇するようなことがなくなりました。
私は仕事をずっと続けたいと思っていたので、仕事を続ける上でも手術することは必須でした。デスクワークが中心の職場ではありますが、出張や都内で転勤もありますし、それなりに忙しくしていたと思います。職場の理解や周囲のサポートもあって、手術期間こそ長期休みをいただきましたが、私は定年近くまで普通の人と同じように働くことができました。それは本当に良かったと思っています。
-最後に、手術を悩んでいる方にメッセージをお願いします
人工関節置換手術は簡単な手術ではないので悩まれるのも無理はないと思いますが、私は痛さを抱えながら不自由な社会生活をするよりは、いっそ手術をすることをお勧めします。
もちろんリスクもありますし、術後は半年毎定期的に病院に通うことになるので、それらを理解した上で最終的な判断は本人になりますが、特にお仕事を生涯現役で頑張りたい方は手術によって改善されることが多々あると思います。私も手術をしたおかげで同僚と何ら変わらない仕事人生を送ることができました。今は医療も進化しているので、手術のリスクも昔ほどはなく、また入院期間も短縮されています。手術を考えている方はぜひ積極的に情報収集や既に人工関節置換手術をした患者から体験談を聞くなどをして、前向きに検討することをお勧めします。
