血友病とは?
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治療の歴史
以前は、輸血によって凝固因子を補充する治療を行っていましたが、その後、血液から凝固因子を濃くすることができるようになり、血友病患者さんの出血の管理がしやすくなり、自己注射でももちいられるようになりました。ただ、非加熱製剤のために多くのHIVやHCV感染を引き起こしたことが、大きな社会問題となりました。現在では、多くの製剤は血液ではなく細胞から作られるようになり、血液由来の製剤もウイルスは除去される処置がされており、感染の危険性はありません。
現在の治療
出血時に凝固因子製剤の投与をおこないます(オンデマンド療法)。これに加えて、重症や重症に近い中等症の患者さんでは、関節出血を予防するために、定期的に凝固因子製剤の投与を行います(定期補充療法)。しかし、体の中の凝固因子は体の中では、あまり長持ちしないので、定期的に治療する場合は、週に2〜3回の投与が必要となります。
治療の工夫
何回も注射をするのは誰でも嫌なことです。特にお子さんでは、なおさらでしょう。注射の回数を減らすために、凝固因子が長持ちするような製剤が使用できるようになってきています(半減期延長型製剤)。血友病Bの場合は7日から14日に1回程度まで注射回数をへらせます。血友病Aの場合は週に2回程度にまで注射回数を減らせます。ごく最近、日本のメーカーが皮下投与できる新しい血友病Aのインヒビターに対する治療薬を開発しました。これは皮下投与で週に1回で治療が可能になる画期的な薬剤です。
血友病の治療に有効な遺伝子治療について
2022年に欧州で血友病Aに対するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター遺伝子治療薬、米国で血友病Bに対するAAVベクター遺伝子治療薬が承認されました。日本では一部の施設で治験(研究段階で患者さんに投与すること)が行われてきています。現段階では通常診療でうけられる状況ではありませんが、近い将来に国内でも患者さんが受けられる可能性が高いと思います。ただ、欧米で報告されている薬価がとても高額であり、患者さんがどのように受けられるかは現段階でわかりません。
臨床試験の結果では、1回の遺伝子治療薬の静脈投与(注射)で何年も凝固因子が発現し、出血予防のための凝固因子製剤の使用はほとんどいらないくなります。ただし、治療効果の個人差も大きいです。また、血友病Aでは治療効果が徐々に減衰する可能性も指摘されています。
遺伝子検査以外に保因者が保険で受けられる検査について
保因者の健康のために凝固因子活性を測定しておくことをおすすめします。
保因者はX染色体の片方が正常で、あまり出血をしないと考えられていましたが、2つあるX染色体の強さに個人差があるために、血中の凝固因子活性が低い保因者もいます。そのため、血友病疑いという病名で凝固因子活性を測定いただき、低い場合には手術、分娩、怪我をしたときなどには凝固因子製剤を投与できるようにしておいた方がいいと思います。日本血栓止血学会のホームページに血友病診療に詳しい施設(拠点病院や中核病院)が記載されていますので、受診されるといいと思います。
血友病の治療における今後の展望
血友病Aではヘムライブラ(エミシズマブ)の登場によって、特にインヒビターのある患者さんの治療や、小児患者さんの治療が劇的に改善しました。血友病Aではヘムライブラに類似した抗体製剤の改良が進んでいくと思います。また、近い将来、第VIII因子製剤でもより長く効果が出現する(週に1回で最低凝固因子活性が15%程度)薬剤が登場する予定です。患者さんの活動度や状況に応じて薬剤を選択していく必要があります。
血友病Bでは、現在の半減期延長型製剤の効果が素晴らしく、しばらくこの状況が続くと思います。現在、最も止血治療に困っているのはインヒビターのある血友病B患者さんです。インヒビターのある血友病B患者さんについては抗凝固物質を抑制する再バランス療法が期待されています。一つは、肝臓のアンチトロンビンという抗凝固物質を抑制する薬剤です(開発中)。また、近い将来に抗凝固物質TFPIという物質を阻害する薬剤が登場する予定になっています。これらが承認されれば、インヒビターのある血友病B患者さん出血コントロールが容易になる可能性があります。
2022年に欧米において、血友病A、B、ともに遺伝子治療が承認されました。
現在、開発中の遺伝子治療用製剤も多くあり、今後は複数の遺伝子治療薬が承認されていくことが期待されています。ただ、遺伝子治療も治療効果の個人差が大きいこと、血友病Aでは治療効果が減弱していく可能性が指摘されております。国内では承認されていませんが、今後は実際に投与を受ける前に治療効果についての情報をしっかりと収集してご自身で決定することが重要です。
近未来の治療
徐々に血友病患者さんの注射回数が減り、徐々に出血を意識しない生活が可能になっていますが、注射が一生必要という点は改善していません。そこで、現在は遺伝子治療が注目されています。1回の治療で治療効果が持続しますので、患者さんからの期待も大きい治療です。欧米ではすでにヒトにおいて有望な成績が報告されています。私達の遺伝子治療や、さらに未来のゲノム編集治療を開発することで患者さんのやくにたつ研究を目指しています。