血友病とは?
一覧はこちら片道8kmの自転車通勤! 高校教師として運動部の顧問も歴任してきた血友病患者のHさんにお話を伺いました。
血友病患者と血友病保因者を支援する社会福祉法人はばたき福祉事業団です。
今回インタビューをしたのは学生時代にテニス部で活躍し、今も片道8kmの自転車通勤に加え、高校教師として運動部の顧問を歴任するなどアクティブな日々を過ごされている血友病患者のHさんです。
幼少期こそ運動制限によってつらい思いをしたこともありましたが、血友病患者としてスポーツとの関わり方を模索し続け、成長と共に「やりたいことをやる」ためのスタイルが確立されてきました。
Hさんには血友病患者としてのスポーツとの付き合い方や気をつけるべき点などをお伺いし、さらに血友病患者のお子様を持つ保護者の方に対しても子どものスポーツとどう向き合うべきかアドバイスをいただきました。
・・・
―Hさんは今でこそアクティブに過ごされていますが、幼少期から盛んに運動をされていたのですか?
幼少期はスポーツをいろいろとやりたい気持ちがあったのですが、やはり血友病患者ということで親が運動を制限していました。
まず、小学校の時は少年野球に憧れていたのですが、団体競技は迷惑をかけることになるという理由で親が許してくれなかったですね。それならば空手をやろうと、親に黙って見学に行ったのですが、戻ったらバレてしまってダメだと言われました。
そんなわけで、中学に入ってからも運動系の部活に入ることは許されず、吹奏学部に入りサックスを吹いていました。部活はそんな感じだったのですが、たまたま相撲部の友人がいまして、大会に出る人数が足りない時にピンチヒッターで相撲の大会に出たことはあります(笑)。部活動というよりも単発の活動だったので、そればかりは親も許してくれましたね。
そんなこんなで、中学卒業までは運動らしい運動をやることはありませんでした。
―では、スポーツを始められたのは高校になってからなのですか?
はい。自分としては文化系の部活しか入れないことがコンプレックスだったので、何としても運動系の部活に入ろうと思っていました。中学までは製剤投与のための自己注射を親がしていましたが、高校に上がる前に自分でやれるようになったので、親としても運動に対して寛容になったのだと思います。運動部に入ることを手放しに賛成するという感じではなかったと思いますが、テニス部に入ることをなんとか許されました。
―晴れて運動部デビューですね! 実際に部活動が始まってどうでした? 大変だったことはありますか?
やはり怪我は多かったですね。肘と足がよく痛くなりました。夢中でプレーをしているので自分では気付かないのですが、いつの間にか内出血しているようなことはしょっちゅうでした。痛いのですがやりたい気持ちの方が強いので、治りきる前にやってしまうなど無茶もしていました。今思うと、痛みとは常に隣り合わせでしたね。
―病院へも定期的に通われていたと思うのですが、お医者さんはHさんが運動部に入っていることに対してどのように言っていましたか?
あまり良い反応ではなかったと思います。しょうがないな、って感じでしたね(笑)。
お医者さんは、「血友病患者がスポーツをやるのであれば水泳か自転車がいい」といつも言っていました。要は地面に足がつかないスポーツですね。重力がかからないので、膝や足首に負担がかかりにくいという理由です。でも自分はテニスをやっていたので、お医者さんとしても賛成はできなかったのではないでしょうか。
―テニスは高校3年間続けていたのですか?
はい、ずっと続けていました。念願の運動部だったので楽しくてしょうがなかったです。それこそインターハイを目指すような本気の運動部ではなかったので、自分でも続けることができました。
―テニスはその後も続けられたのですか?
大学では軽音楽部に入りました。ただ、運動するのは好きだったので、卒業してからは個人的にマラソンをするようになりました。毎日走っていたのですが、やり過ぎたせいか足だけではなく腰までも痛くなったので、今はお休みしています。腰の痛みなどは血友病であることが関係しているのかわかりませんが、とにかく色々と痛くなってしまいましたね。
そのようなこともあり、今は運動らしい運動といえば、クロスバイクで通勤しているくらいです。片道8km、30分くらいの距離を毎日自転車で走っています。お医者さんが言っていた通り自転車は足に全く負担がかからないですね。今のところ楽しく続けていますよ。
―自転車通勤は健康的ですね!では、今は他のスポーツはされていないのですか?
自分は高校の教員なので、実は顧問として様々な部活を持たされています。高校の部活の顧問というのはその分野の経験者がなるというものではなく、未経験の分野であっても顧問として任命されることも多々あります。自分はこれまでにバスケ部、テニス部、バドミントン部、サッカー部の顧問を歴任してきました。いずれも専門外なので、生徒と一緒に自分も練習しています(笑)。
―面白そうですね! 顧問という立場ではありますが、運動部を経験できるのは楽しいのでは?
基本的には楽しいのですが、正直スポーツにもよりますよ。顧問が指導する部活もあれば、顧問とは別にコーチがいて、コーチが指導する部活もあります。サッカー部の顧問になったときは、自分が全く役に立っていないと感じることが多々ありました。高校のサッカー部ともなるとみなさん上手なので、とても自分が指導できるようなレベルではありません。教えることもないのに自分はただそこにいるだけだったので歯痒かったですね。
―職場の同僚や上司には、Hさんが血友病であることを伝えていますか?
管理職の立場にある先生方には最初に伝えていますが、同僚にはわざわざ自分からは言っていないですね。ですから特別扱いされるようなこともなく、力仕事なども同じようにやっていますよ。変に気を遣われるよりはよほどいいので、周囲が知らないことで困ったことはないですね。
ただ、意図的に伝えたこともあります。どういうことかと言うと、サッカー部の顧問になった時にあまりにも何もやれることがなかったので、その状況をなんとかしたいと思い、「自分は血友病なので、運動系の部活を持つことは難しい」と、希望調査書に書きました。そうしたら学校側も便宜を図ってくれて、おかげさまで今では演劇部の顧問です(笑)。
―演劇部! 対極的ですね。Hさんはサッカー部からも、運動部全般からも離れることになってもよかったのですか?
顧問になってから知ったのですが、演劇部が本当に面白いので運動部ではないですが演劇部の顧問として十分に楽しめています。
―なるほど。それは発見ですね。話はスポーツに戻りますが、大人になってからは運動に関して、やりたいことをやれている感じですか? 幼少期のように「やりたいけどやれない」というようなことはないのでしょうか?
今では昔のようなストレスはないですね。
自己注射も週に1回決まった曜日にやっていますし、激しい運動をやる前は、定期補充にプラスアルファとして製剤投与をしているので、血友病患者としてうまくスポーツと付き合えていると思います。
しかし、今でこそちゃんとしていますが、学生時代までは自己管理がずさんでした。大学時代までは定期的に注射を打つという習慣がなかったので、痛くなったら打つくらいのいい加減な対処でした。それどころか、痛くなっても打たないということもあり、それで肘や膝が痛くなるようなことはしょっちゅうでした。
そのような過去があって今では定期補充をきちんとしていますし、薬も進化しているということもあるので、問題なく日常を送ることができています。
―自己管理がずさんだったのは意外です。これまでに、運動に関することで大変な思いをしたことはありますか?
それはもういっぱいありますよ(笑)。
大学の時にサッカーの授業で足を痛めて歩けないくらいになってしまいました。自分は一人暮らしで大学から離れた場所に住んでいたので、一時期タクシーを呼んで学校に通っていました。誰かの助けを借りることもできたかもしれませんが、大学時代は自分の病気ことを友人にも言っていなかったので、一人で何とかしようと思ったのでしょうね。
他にも、友人とボーリングに行った際に、あまりにも熱中しすぎて気付いたら歩けないくらいに痛くなってしまい、友人におんぶされて帰ったことがありました。おそらく徐々に痛くなっていたのだと思いますが、痛さよりも楽しさが勝ってしまい放置してしまったのでしょう。本当は注射を打てばよかったのですが。友人の前で打つわけにもいかず、結局悪化してしまったわけです。
―当時の通院のタイミングは、薬が切れた時ですか?
数ヶ月に1回は行っていましたが、行く前に薬がなくなってしまうこともよくありました。薬といえば、大学時代に1年間の海外留学に行ったことがありまして、その時は何かと大変でした。
まず、薬を滞在先に持ち込むことが大変でした。
行き先はオーストラリアだったのですが、入国の際に税関で書類を見せて、何に使うのかなど説明しないといけません。ただでさえわからない医療の専門用語をさらに英語で説明するので一苦労です。さらに滞在先で薬がなくなると日本から送ってもらっていたので、親も大変だったと思います。
―大学生になったとはいえ、ご両親にとって血友病である息子さんを海外へ送り出すことは勇気のある決断でしたね。
そうですね。思えば幼少期は制限の多い生活でしたが、成長と共にやりたいことができるようになってきました。意識的かどうかわからないですが、親としても子どもの主体性を尊重し、少しずつ手を離していったのではないでしょうか。
―血友病のお子様を持つお母様やお父様は、子どものやりたいことをどこまで許容するべきか悩んでいる方も多いと思います。血友病患者としてのどのようにスポーツと関わるべきか、また血友病患者の親は子どものスポーツ活動にどこまで関与すべきかなど、Hさんの経験をもとにアドバイスいただけたらと思います。
自分の幼少期に比べて今は薬が格段に進化しています。自分は小学校、中学校時代に親から激しいスポーツや運動部に入ることは禁止されていましたが、今では定期的な製剤投与を行っていれさえすれば、スポーツや運動部活動も十分に可能ではないでしょうか。むしろ、筋力や体力をつけるために、幼少期ほど適度な運動はやったほうがいいと思っています。
自分は小学校の頃にやりたいようにスポーツをやれなかったことが今でもコンプレックスになっています。「あの時、少年野球に入っていたら……」、「あの時、空手を習っていたら……」と今でも時々思います。今となってはあの時の親の気持ちも理解できますが、子どもにとってやりたいことがやれないという辛さは大きいので、今でしたらやらせてあげてもいいのではないでしょうか。
しかし、いくら薬が良くなったとはいえ、スポーツをやるからには定期的な製剤投与をするなど万全の対策を取らなくてはいけません。自分は学生時代までは自己管理がずさんだったので、痛みや怪我によく見舞われていました。怪我が続くと骨が変形したり関節障害になったりするなど様々な弊害も出てくるので、そうならないためには徹底した自己管理が必要です。
やりたいことをやるためには責任を伴うということを知り、その覚悟を持ってスポーツをやるべきではないでしょうか。その過程で怪我をすることもあるかもしれません。しかし、失敗を経験しながら管理方法を模索し、少しずつ自分とスポーツとの付き合い方を確立させていくことは自己の成長に繋がると思います。
自分で自分を管理しながらやりたいことをやる。それが血友病患者としてスポーツをやる上で大切な心構えではないでしょうか。