血友病とは?
一覧はこちら保因者の娘を持つ血友病患者のTさんにインタビューをしました〜「保因者の親に必要なのは正しい知識、そして仲間」
血友病患者と血友病保因者を支援する社会福祉法人はばたき福祉事業団です。
今回インタビューをしたのは、血友病患者であり2人の成人した娘の父でもあるTさんです。保因者である娘さんとのこれまでの関わり、娘さんの恋愛や結婚の際のお相手との向き合い方など、Tさんが経験してきたことを軸に、保因者の親としての考えなどを語っていただきました。
結婚、そして子どもを持つことの責任
―まずTさん自身がご結婚される時、お相手にご自身のことをどのように伝えたか教えてください。
自分は今49歳ですが、結婚したのは早く22歳の時でした。その際、自分の病気のことはもちろん伝えましたが、正しく理解するのが難しい病気なので詳しいことまでは話さなかったと思います。
―生まれてくる子どもが血友病あるいは保因者になるという可能性については、お相手の方も理解していましたか?
結婚してすぐに子どもを授かったのですが、自分と同じ血友病Aを生む可能性については、「女の子が産まれたら、血友病Aの子を産む可能性は有る。」ということは説明しました。まず生まれてくる子どもが女の子か男の子かもわからないですし、伴性劣性遺伝という遺伝の病気である話や、「突発的に出現することも有る。」ということについては説明しました。それ以上の情報は一般の人には理解が難しいので、生まれる前に中途半端に教え、病気のことについて混乱させるよりはむしろ知らない方がいいと思い、それ以上の情報の共有はしませんでした。
―ではお相手の方は、娘さんが生まれた後に徐々に病気に対する理解を深めていった感じですか?
生まれた後もあまり変わらないですね(笑)。これは持論ですが、血友病なのは父親である自分なので、自分に起因している問題は自分がなんとかするって考えです。母親に理解させようとするより「全責任は自分の責任において。」というのが自分の考えであり覚悟です。
生まれてきたのが女の子だったので保因者となりましたが、そのことに対して娘たちには何一つ責任がありません。だから、娘たちのことは自分が全力で守るしかないと思っています。
2人の娘とはなんでも言い合える仲だから、幼少期に自然に伝達
―娘さんへの伝達は、いつ頃どのようにしましたか?
今でもそうですが娘とは昔からオープンな関係で何でも話し合えるので、小さい頃から保因者であるということは知っていたと思います。思います、というのは実は自分が娘たちとは一緒に暮らしていないので、父親である自分からではなく、母親から「お父さんはこういう病気なんだよ、だから詳しくはお父さんに聞きなさい。」と娘たちに伝えたようです。今のところ何も聞いてはこないですが、思うところはあると思います。
しかし、現状としてはまだ深くまで聞いてくることはないですが、どこかで話さなければならないとは思っています。
血友病について徹底的に調べ抜いた過去。不安なのは“知らない”から。
―Tさんは血友病に対する理解が深いですが、どのようにしてその知識を身につけていったのですか?
自分の親は病気について全然知識が無い人だったので、自分の病気のことは自分で調べ抜きました。自分の体のことは誰でも気になると思うのですが、血友病であることに対して抱く恐怖や不安になるのは病気について知らないからだと思い、その恐怖や不安を軽減するためにも徹底的に調べました。
当時はインターネットもない時代だったので、調べるのには苦労しましたよ。図書館や本屋に通って専門書を読み漁ったり、立ち読みしたりして、主治医と同等と言うと大袈裟かも知れませんが主治医が言っていることが100%理解できるくらいの知識は身につけたと思います。そうしないと治療の選択もできないですし、治療で使用する注射製剤の選択すら、知識が無いことには出来ないわけですから。
今の医療現場では、治療の主導権は患者が握っていますが、実際はまだまだ主治医が主導権を握り行われているのが現状です。本来は対等であるはずなのですが、自分の体、自分の病気なので、自分自身が当事者意識を持って自身に合った納得のいく治療を選ぶべきだと思うので、対等に渡り合うにはそれ相当の知識が必要であるということだと私は思います。
だからこそ、知識を独学でも良いので身に付けるべきではないかと思うのです。今でも不明点あれば、主治医に、「ドクターとしての所見はどうですか?」と問いますし、もちろん自分の所見も述べます。でも、この関係が凄く治療をしていく上では大事ではないかと思っていますし、とても良い関係ではないかと思っています。
正しく伝える。そのためには正しい知識が必要。
―病気に対する正しい知識を身に付けることは、自分だけではなく子どもにとってもメリットが大きいですよね。
かつては自分の不安を取り除くために、病気のことを貪欲に調べていましたしが、今では自分の子どもやその結婚相手に正しく伝えるために知識を身につける必要性を感じています。
病気のことで子どもが不安に感じたり、生き辛さを感じたりしたら、それは親にとって本当に不本意なことです。子どもやその結婚相手を納得させることができるだけの知識を自分が持ち、子どもと子どもの結婚相手の不安を取り除くことも大事なのではないでしょうか。
自分の子どもに「何があっても俺が守るから大丈夫」と言うためにも、正しい知識が必要なのです。
「自分達が知っていればいい」。娘の結婚に際してお相手に伝えること
―上の娘さんが27歳とのことで、そろそろ結婚のお話もあるのではないでしょうか。
娘はまだ独身ですが過去にそのような話があったこともあります。お付き合いしていくなかで、その話は無くなりましたが、その時には娘のお相手にたくさんのことを伝えました。
血友病という病気は遺伝の病気なので“絶対に遺伝する”と誤解されがちですが、血友病患者や保因者から生まれても健常者になることもあります、逆に突発的に出現することもあります。つまり、生まれてくる子どもが血友病や保因者になるというのは可能性の話であって100%ではないのですよ。そこを正しく伝えるところから始めないと、その後の理解がおかしくなります。
そして、それらを伝えた上で、「生きていくのは自分達だから、両親にまでは必ずしも言わなくてもいい」とも伝えています。血友病患者や保因者との結婚ではお相手の親に反対されるケースもありますが、それらの多くは知識不足からきていますし、仮に理解されたとしても最後まで一緒にいるのは親ではなく自分達なので、親はやがていなくなるから自分達と自分達の子どものことを考えればいいのではないでしょうか。
娘が一緒にいたい人と一緒にいられるように環境を整える。それが親の役目。
―当の娘さんに対しては、結婚話の際にどのようなお話をされましたか?
何も心配するな、二人で生きていく上でフォローはちゃんとすると言いました。さらに、「万が一自分に何かがあった時にも二人のことをフォローしてくれる人間がいるから、その人たちを頼れ」ってことも言いました。
これは親心として共通の部分だと思うのですが、自分の子どもが自分で選んだ人であれば、そこに反対する理由はありませんし、子どもの人生を親は全力で応援し、支えます。自分の子どもが選んだ人と一緒にいられるための環境を整えるのが親の役目なのではないでしょうか。
ただ、娘は保因者であり、少しばかり他の人と事情が違うので、いざという時には親が動かないといけない場面もあります。娘には「後ろにはいつもお父さんがいるから、何も不安がることはない」と伝えてあります。
大事なのは生きる賢さを身につけ、仲間を作っておくこと
保因者として生きていくのは不安な部分もあると思います。親として自分の子どもの不安を取り除くには、本人に正しい知識を見につけさせることが大事なのではないかなと思っています。
保因者として医者と関わることもあるかと思いますが、そのような時に、私から見れば孫にあたる子どもにとって最善の選択をしていけるかどうかは、母親である娘次第です。自分の子どもの状態は全て自分で把握し、言語化しておくことが大事ですよね。それが子どもを守ることにも繋がりますし、子どもを守ることができるのは親だけであると思うのです。周りと協調や協力を得て、その日その日を、全力で生きていく。生きる賢さとはそういうことではないでしょうか。
そして、自分を支えてくれる人をたくさん周りに置いておくことも大事です。周りがしっかりとしていれば何とかなります!!(笑)。そのためには友達や仲間を沢山作ることですね。
自分はまぁまぁいい加減です(笑)、でも、周りが素晴らしい人間ばかりなのでこんなにも楽しく自由に生きています。親としてやってあげられることは限られているので、自分で仲間を作って、どんどん生きる道を切り開いていってほしいですね。