血友病とは?
一覧はこちら血友病の医療の最新状況と今後の展望について〜自治医大の大森先生のインタビューをしました
血友病患者と血友病保因者を支援する社会福祉法人はばたき福祉事業団です。
今回は血友病患者の診療や遺伝子治療の開発を長年続けられている自治医科大学教授、大森司先生にインタビューし、血友病の医療の最新状況と今後の展望についてお話していただきました。
時代と共に血友病患者の意識はどう変わってきた?
―大森先生は長い間、血友病の患者様を診られてきたと思うのですが、患者様の血友病に対する意識は変わってきましたか?
私は幅広い年齢層の患者様を診ていますが、5~60代より上の世代になると関節障害をお持ちの方もいらっしゃるので、やはり自分の疾患を日常的に意識せざるを得ない状況にあると思います。
しかし時代と共に治療は良くなってきているので、40代以下の患者様に関してはそれほど自らの疾患をネガティブに捉えていない印象です。もちろん症状に個人差こそありますが、中等症や重症であっても適切な間隔で血液凝固因子製剤の投与をしていれば不自由なく日常生活を送ることはできます。仕事や旅行も健常者と何ら変わりなくやっていますし、アウトドアスポーツを楽しんでいる方もいらっしゃいますよ。
治療の進化によって日常生活が改善されている
―治療の進化によって患者様の日常生活が改善されているのですね
はい、そう感じます。血友病にもAとBの2種類があり、それぞれ血液凝固因子製剤の投与間隔が異なるのですが、特にBの場合は最近の半減期延長型製剤(長く体の中で維持できる製剤)の持続効果は高いですね。血液凝固因子製剤は年々進化していますが、血液製剤以外にもヘムライブラという画期的な抗体薬が2018年に日本で承認されてからは血友病Aの製剤の投与間隔も長くなりました。
少し専門的な話になりますがヘムライブラは、血友病Aで足りない第VIII因子(8因子)の機能を抗体で代替するものです。この第VIII因子は血液を凝固させるための活性化第IX因子と第X因子を結合するのを助けています。へムライブラは抗体なのですが、第VIII因子の代わりとなって活性化第IX因子と第X因子を近づけて止血を助けます。しかし、ヘムライブラのような新薬を治療に取り入れるかどうかは患者様次第なので、あくまで治療の選択肢の一つとしてご紹介しています。
このように投与間隔が長くなっていくことによって、血友病であることが日常生活に支障をきたすことが少なくなくなってきました。注射も基本的には自己注射なので、病院へは2〜3ヶ月に一回くらいの頻度で通われています。
血友病治療の歴史と最新の治療
―ヘムライブラは画期的な治療薬ですよね。あらためて、血友病の治療の歴史を教えていただいてもよろしいでしょうか?
最初の治療は輸血でした。血液の中に凝固因子が足りないので、当初は血液そのものを投与する輸血によって凝固因子を補充していましたが、これですと非常に効率が悪い。そこで出たのが、凝固因子を濃縮した製剤、つまり凝固因子濃縮製剤です。この中で、非加熱血液製剤はウイルスを不活化するための加熱処理が行われてないことによって、HIVウィルスが混入されたものが治療に使われてしまうという大きな問題を起こしました。社会を揺るがした薬害エイズ問題です。
その後はウイルスが不活化された血液由来の凝固因子製剤の治療が主流だったのですが、19凝固因子の遺伝子が発見されてから、遺伝子組換え製剤が使用されるようになり、ウイルス感染のリスクがなくなりました。ただ、凝固因子は投与しても血中にあまり長くもたない。そのために半減期延長製剤が登場し、この流れにプラスアルファとしてヘムライブラのような抗体薬が使われるようになりました。そう考えると、輸血の時代から比べると格段に治療は良くなってきています。また最近では、血友病に対する遺伝子治療も開発がすすみ欧米で承認された薬剤も登場しています。遺伝子治療は一回の投与で何年も血中凝固因子が持続することが報告されています。
ただ、治療がどんどん新しくなるのは喜ばしいことなのですが、新薬の開発はお金がかかることですし、血友病の患者数は限られていますので治療薬の価格がどうしても高額になりがちです。これは本質的な問題ではないかもしれませんが、治療薬の価格に関してはまだまだ課題が大きいですね。
患者様の希望に合わせた治療を
―近年の血友病治療では、治療方法にも選択肢があるということですね。
はい。先ほども申しましたように、新薬が出た際には紹介はしますが、それを治療に取り入れるかどうかは患者様次第だと思っています。製剤投与の間隔においては、血友病Bの治療に使う半減期延長第Ⅷ因子製剤の性能がすごく良くなっているので、血友病Bの患者様だと1〜2週間に1回でも十分に治療効果を発揮しています。血友病Aの患者様においては標準治療でそこまでの間隔を空けることができませんが、ヘムライブラを使用しなくても週に2回程度の投与なのであえて治療を変えないという方もいます。
治療の質がどんどん良くなっているので、寿命という意味でも健常者とほとんど変わりませんね。大きな怪我や病気などのトラブルがなければ、血友病ということをそれほど意識せずに生活を送ることができるのではないでしょうか。
これからの治療はどこへ向かう? 目指す未来は?
―大森先生は血友病治療の最前線にいられると思うのですが、血友病治療の目指すべき方向性や理想とする患者様のあり方などはありますか。
治療の方向性という意味では、今は投与間隔を長くすることが課題ですが、欲を言えば一回の治療で治るようになればいいですよね。
血友病は決して致死的な疾患ではないので、適切な治療を続ければ健常者と同じように生活ができます。そのことが患者様だけではなく一般にも周知されるようになって、血友病であることがオープンに話せるような社会になればいいのかなとも思います。
とはいえ、血友病患者や保因者の生活が何もかも健常者と一緒というわけではなく、気をつけなくてはならない場面はあります。例えば血友病保因者の女性が男児を出産する際の頭蓋内出血などです。頭蓋内出血は後遺症が残ることがあるので、血友病医療に対応している病院で産科・小児科と密な連携をとりながら出産する必要がありますよね。
そして、中にはご自身が保因者であることを知らないまま大人になってしまう方もいらっしゃるので、血縁内で血友病患者や保因者の方がいるのであれば、そのことを親族内で共有することが大切だと思っています。遺伝の病気なのでデリケートな話ではありますが、少しでも可能性がある場合は早い時期に検査を受けることをおすすめします。自分が血友病や保因者かもしれないということを知るのは、ご両親からの伝達からになると思いますが、そのタイミングや方法なども含めて、私たち医師やサポート団体にご相談いただければと思います。
血友病は遺伝の病気ではありますが、必ずしも家族内に血友病がいなくても見つかることもあります。遺伝子の変化というのはある一定の割合で誰でも起こっていて、血友病の場合には偶然、凝固因子のところに生じてしまった結果で病気が生じます。このような遺伝子の病気の考え方が社会にも浸透していくことで、患者様が社会的にも自身の疾患を意識しないで生活できるようになる環境が整えば嬉しいですね。