血友病とは?
一覧はこちら趣味はアウトドア。スキーやマウンテンバイクなどを楽しむ血友病患者のKさんにお話を伺いました。
血友病患者と血友病保因者を支援する社会福祉法人はばたき福祉事業団です。
今回インタビューをしたのは、血友病患者であり1児の父でもあるKさんです。
アウトドアが趣味で日常的にスキーやマウンテンバイクなどをアクティブに楽しむKさんは、「やりたいことはやる」というポリシーのもと、血友病患者としての新しいあり方・生き方を実践しているようにも思えます。
幼少期は運動制限などで辛い思いをしたこともあったそうですが、自身の境遇をネガティブに捉えることなく次々とチャレンジをし続けて、今の充実した生活にいたったそうです。
血友病患者を取り巻く環境の変化、お仕事のこと、そしてプライベートの大切な決断について率直に語っていただきました。
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―ご自身の病気のことは、いつどのように知りましたか?
おそらく2〜3歳の時だったと思います。何かの拍子で頭を強く打ち、出血がいつまでも止まらなかったので病院に連れて行ってもらったのですが、その時に自分が血友病であると知りました。正確に言うと、私が知ったのではなく私の親が知りました。それまでは自分の子どもが血友病であると知らなかったようです。
しかし、どうやら私の祖母が保因者だったらしいので、遺伝的に可能性はあったということでしょう。私自身はまだ小さかったので、当時は血友病という病気を理解していたわけではなく、「激しい運動をしたら足が痛くなりやすい病気」「ケガをしたら血が止まりにくい病気」程度の認識でしたね。
―学校生活ではどのようなことに気をつけていましたか?
小学校へ上がると体育の授業やクラブ活動、それから習い事などで激しい運動をする機会が増えてきます。私としてはサッカークラブに入りたかったのですが、当然のことながら激しい運動はできないので、悔しい思いをして諦めました。当たり前といえば当たり前なのですが、親は極力私を激しい運動から遠ざけようとしていたので、マラソン大会に出ることもなく、競技によっては体育の授業も見学になるなど、それなりに制限がありました。何しろ自分はまだ小学生なのでついついみんなと一緒にやろうとしてしまうので、私よりも親が気をつけていたと思います。
―学校の先生や友人に対して、病気のことをどのように伝えていましたか?
学校の先生にも友人にも最初からオープンに伝えていました。実は母が小学校の教諭だったので、母から学校へ過不足なく事実を伝達していたと思います。学校としてできるサポートや血友病の児童に対しての関わり方などについては母も基礎知識はあったと思うので、学校との連携はスムーズでした。
友人に対しては、自分から隠すことなくオープンに話していました。と言っても、血友病という病気については自分も理解が不十分だったので、みんなには「足が痛くなりやすい病気なんだよ」と言っていました。友人も特にそれについて深く聞いてくるようなこともなかったので、体育を見学する時もありましたが特別扱いされているような感じではなかったですね。
―日常的にどのような治療をしていましたか?
自分は血友病のBで、おそらく中等症〜軽症だと思います。血液製剤に関しても定期投与というよりも何かあったら病院に行って注射をしてもらうような感じでした。さすがに数ヶ月間空くようなことはなかったですが、日常的に病院通いってわけではなかったです。そして、多くの血友病患者を持つご家庭がそうしているように、私たちも家で自己注射をしていました。
小学校の高学年くらいまでは母が注射を打っていましたが、やはり母も素人なので失敗することもあります。失敗をすると何度もさされるので、痛いわけですよ(笑)。それならば、自分で打つ方がいいのではないかと思い、徐々に自分で自己注射を打つようにしていきました。小学校のうちに自分で打つようになったので早い方ではないでしょうか。
―病気のことでこれまでに大変だったことは?
幼少期は母が気をつけていたのでこれといって問題は起きなかったのですが、成人してからは何度かありました。まずは、10年ほど前に親知らずを抜いた時です。血友病患者の抜歯時の出血が大変だということは自分もわかっていたので、この時は然るべき医療機関で入念な対策をとってから抜歯をしました。輸血はしなくて済みましたが出血が止まるまでは1週間ほど入院をして安静にしていました。
そして、これは昨年の話になりますが、マウンテンバイクで転んで肩を強く打ってしまいました。この時にひどい内出血をしまして、完治するまでに相当時間がかかりました。おそらく血友病の患者ではなくても大怪我だったと思うのですが、それこそ「これはヤバイぞ」ってくらいの広範囲なあざとなって、しばらくは痛々しい状態でした。大変だったこととしてこの2つがパっと思い出されますが、それ以外はあまり記憶にないですね。
―血友病患者を取り巻く環境の変化で感じることは?
私は今40歳ですが、生まれた時にはすでに治療がある程度確立していた印象です。少し上の世代になってくると関節障害などに悩まされてきた方もいると思いますが、幸い自分にはそういうこともなく、自身の病気とはうまく付き合えている方だと思います。環境の変化というよりも医療の発達によって血友病患者の生活面が向上してきている印象です。製剤投与の間隔も昔ほど頻回ではないですし、病気に対する正しい理解も広まってきているのではないでしょうか。
―結婚について教えてください。結婚を前提にお付き合いした女性に対しては、ご自身の病気のことをどのようにお伝えしていましたか?
小学校時代から変わっていないのですが、その後の学生生活における友人付き合いでも、そして女性との付き合いでも、自分の病気のことはオープンにしていました。きっと隠すようなことではないと自分自身が無意識にですが認識しているのでしょうね。伝えたところでそれについて周りから特異な目で見られたこともなかったですし、「ふーん、そうなんだ」くらいの反応しかなかったと思います。
女性との付き合いでも結婚を前提にするかどうかに関係なく、自分の病気のことは早い段階で伝えていました。伝えることに関しては全く抵抗なかったですし、それによって関係が悪くなるようなこともなかったですね。
―結婚に際して、お相手のご両親や親族はどのような反応でしたか。
お付き合いした女性といざ結婚となった時は、全てが順調というわけではありませんでした。やはり彼女のご両親が手放しに喜ぶという感じではなかったですね。彼女のご両親の方でも血友病についていろいろと調べたと思うのですが、遺伝する病気であるというリスクや、治療の際の感染症のリスクなど、さまざまなリスクを考えて心配をされていたと思います。あからさまに口にしたわけではありませんが、おそらく心の内では反対だったのでしょう。しかし、そのような中で彼女の祖母が味方になってくれました。
というのも、私と彼女の祖母とは結婚前から交流があり、自分で言うのもなんですが認められていたというか一定の信頼関係がありました。そこで、彼女のご両親の様子を見て、「彼なら間違いない、大丈夫」と、結婚を後押ししてくれたのです。そのおかげで、彼女のご両親も少しずつ結婚に対して前向きになり、最終的に結婚を許されるようになりました。
―お子様を持つことに対してどのようなお考えでしたか?
結婚生活の中で、私たちはごく自然に子どもを持つという選択をしましたが、心配がなかったわけではありません。私が血友病なので男の子が生まれれば問題がないのですが、女の子だった場合は保因者になります。そして、その女の子、つまり自分の子どもが今度は結婚となった際には、またそのお相手やご両親の理解の問題も出てきます。いろいろと考えたらキリがないですが、それらを踏まえてやはり子どもを持つという選択をしました。
というのも、私自身、血友病患者としてこれまで過ごしてきましたが、子どもの頃に多少の行動制限があったにせよ、医療の進歩や周囲の理解のおかげでネガティブな気持ちにならずに過ごしてきました。ですから、もし自分の子どもが血友病患者か保因者になったとしても、きっと素晴らしい人生を送ることができると信じていたからです。私たちはそのような考えで子どもを持つことにしましたが、生まれた子どもは男の子だったので今は健常者として何ら問題なく生活しています。
―お仕事について教えてください。お仕事に血友病であることの影響はありますか?
私は車の開発の仕事をしていますが、幸いにもデスクワークが中心なので身体に負担がかかるような業務はほとんどありません。
身体を使うという意味では、自分が開発した車の動作環境を試すためにテストドライバーと共に試乗車に乗ることもあります。重いものを持ったりするわけではないですが、身体的になかなかのプレッシャーなので、血友病かどうか関係なく消耗しますね。しかし、それ以外では基本的に研究・開発業務なので、血友病であることの影響はほとんどないと言ってもいいのではないでしょうか
―血友病患者として日常で行動制限などしていますか?
ほとんどしていないと思います。むしろ、一般的な社会人にしてはアクティブに過ごしているほうではないでしょうか。出身は岐阜県の山間部で、登山やスキーで有名な山々がすぐ近くにありました。そのような環境もあって、現在でもスキーやマウンテンバイクなどのアウトドアスポーツを日常的に楽しんでいますし、時には無茶してしまうこともあります(笑)。私は血友病患者ではありますが、そのことが趣味ややりたいことを抑制するようなことにはなっていないですね。小さい頃は母親が気をつけていたので制限もありましたが、大学で上京して目が行き届かなくなった頃から諦めたのではないでしょうか(笑)。とにかく、今は日常生活だけではなく、趣味やスポーツなども健常者と遜色なくやれていると思います。
―血友病であることが、ご自身の人生にどのような影響を与えましたか?
正直、特に影響していないと思います(笑)。血友病でありながらも私のような人生を送っている人は特殊かもしれませんが、血友病であることは個性の一つというか、それはあくまで自分を構成する一つの要素として理解しています。
また、私の親族や家族にも血友病患者や保因者がいたこともあって、血友病とどのように付き合えばいいのかということを自然と学んでいました。親も必要以上に過保護にせずに、特別扱いしなかったのも良かったと思います。
血友病患者として気をつけるべき点はありますが、意外と何でもできてしまうものです。スポーツやアウトドアなども、最初から諦めるのではなく自身の症状に応じて可能な範囲で楽しむことはできると思います。やりたいことがあるのであれば、まずは一歩踏み出してみるのもいいのではないでしょうか。