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一覧はこちらとある保因者の話(4話)

転機が訪れたのは、学生時代から付き合っていた彼と結婚の話が出た時だった。
付き合い始めて何年経っただろう。
就職してからも関係は続いていたし、お互いの家族とも面識があった。
父も母も彼のことを気に入っていた。
弟なんて、私より彼とゲームの話で盛り上がるくらいだった。
だから、結婚の話が出た時も私は特に不安はなかった。
「今度、うちに挨拶に来てくれることになったよ」
夕食の時、何気なく父と母に伝えた。
きっと喜んでくれる。
そう思っていた。
父は嬉しそうに「そうか」と笑った。
母も微笑んでいた。
でも、その後ふと真顔になって私を見た。
「彼には血友病のこと、話してあるの?」
私は箸を持つ手を止めた。
血友病。
久しぶりに聞いた気がした。
いや、聞いていなかっただけで、ずっとそこにあった言葉だ。
「弟に病気があることは知ってるよ」
そう答えると、母は静かに聞いた。
「遺伝のことは?」
私は言葉に詰まった。
遺伝。
保因者。
二分の一。
高校生の時に聞いたあの日の話が、急によみがえってきた。
「……話してない」
そう答えるのが精一杯だった。
母は責めるような顔はしなかった。
ただ、
「そう」
とだけ言った。
でも、その一言で十分だった。
話しておかなきゃいけないんだ。
そうだよね。
結婚するんだもんね。
今までは私一人の問題だった。
でも、これからは違う。
彼にも関係することになる。
その日の夜、私はなかなか眠れなかった。
どうやって話せばいいんだろう。
彼は驚くだろうか。
不安になるだろうか。
もしかして結婚を考え直したりするんだろうか。
そこまで考えてしまって、自分で自分を止めた。
考えすぎだ。
でも考えてしまう。
頭の中がぐるぐる回る。
保因者かもしれない。
でも、そうじゃないかもしれない。
私はまだ検査もしていない。
何もわかっていないのに、不安だけが大きくなっていく。
そんな時だった。
彼からメッセージが届いた。
『ご挨拶、いつ行けばいいかな?』
スマホの画面を見ながら、私はしばらく返信できなかった。
本当なら日程調整をするだけのはずだった。
でも今は違う。
その前に話さなければならないことがある。
意を決して返信した。
『その前に少し話したいことがあるんだけど、今週末会えないかな?』
すぐに既読がついた。
『どうしたの?』
その文字を見た瞬間、胸が苦しくなった。
たぶん私の文章がおかしかったんだと思う。
彼は勘がいい。
きっと何かを感じ取ったのだろう。
『会って話すね』
そう返した。
週末に会う約束はできた。
でも、そこから先が問題だった。
何を話せばいい?
どこから話せばいい?
そもそも私自身、ちゃんと理解できているんだろうか。
私はベッドに寝転びながら天井を見つめた。
そして、ふと思った。
――母に相談しよう。
血友病の子どもを育ててきたのは母だ。
弟が診断された時から、ずっと向き合ってきた人だ。
私が高校生の時、保因者の話を聞く場にも一緒にいた。
きっと何かアドバイスをくれるはず。
時間はあまりない。
そう思った私は、翌日の夕食後、早速母の部屋をノックした。
「お母さん、ちょっと相談があるんだけど」
母は本を閉じて、静かに顔を上げた。
「彼のこと?」
どうやら、母には全部お見通しだったらしい。