血友病Q&A
一覧はこちらQ&A第27回
血友病A中等症患者です。娘が2人いて、保因者となっており、1人を検査した結果、40%程でした。結婚するのも困難ですが、結婚できたとして子供が生まれた場合をすごく心配しています。遺伝子治療等、身体に負担の少ない治療法が確立されるのは、何年先を想定されますか? 少しでも光明があればうれしいのですが。よろしくお願いします。
お問い合わせをありがとうございます。娘さんが保因者であり、凝固因子活性が40%程度で、今後のライフステージの結婚や出産などをご心配されているということですね。お問い合わせ内容から、非常に多くの悩みを抱えているのかと推察します。いくつかにわけて、質問事項を整理したいと思います。
1)血友病治療の歴史について
1960年代以前の凝固因子製剤がなかった時代には、血友病患者は出血した際に止血ができず死亡することが多くありました。特に死因の多くが頭蓋内出血で、血友病と診断された子供たちは成人することが難しいといわれていました。
1970年代に凝固因子製剤が使用できるようになりました。それ以降、血友病治療は年々進化してきています。
以前は出血時だけに凝固因子製剤をつかっていましたが(出血時補充療法)、現在では、出血を予防するために定期的に製剤を投与するのが一般的になっています(定期補充療法)。これが関節症の発症を低下させ、患者さんの生活の質が向上しました。
今の血友病の子供たちの多くは、治療を継続することによって普通に体育の授業やクラブ活動を行っています。血友病の子供が生まれた場合でも悲観的になる必要はありません。
2)新しい血友病治療法について
凝固因子製剤は体の中であまり長くもたないために、出血予防に何回も投与しなければいけません。現在は体の中で長く維持できる製剤(半減期延長型製剤)が使用できます。
血友病Aの場合は、この製剤を使用すると出血予防の定期補充療法が週に3回から1~2回に減らすことができます。血友病Bの場合は、1~2週に1回(よければ3週に1回)に減らすことができます。
さらに血友病Aでは抗体医薬であるヘムライブラは、皮下注(お腹に打ちます)で4週、2週、1週に1回で投与が可能となっております。この製剤はインヒビターがある患者さんにも効果があります。
このような進歩によって、血友病患者さんの出血や製剤の投与による負担はだいぶ減っています。遺伝子治療はさらに効果の持続が期待されています。
現在、最初にうまく遺伝子治療がいった患者さん(血友病B)では8年以上の治療効果が維持されているようです。これが、どこまで維持されるかは未だわかりません。現在、血友病A、Bともに臨床試験(治験)が始まっており、早い製剤では5年以内に承認が得られる可能性があるのではないかと考えています。
3)保因者の健康について
保因者の方も約1/3ぐらいの女性に出血症状があるようだと報告されています。保因者全員が出血症状をもっているわけではなく、出血症状が無い人も数多くいます。
極端に凝固因子活性が低い女性(例えば1-10%くらい)を除いた、一般的な保因者女性の出血症状は、男性の血友病患者さんの出血症状とは異なっています。
男性患者さんが関節内出血をおこし慢性関節症になったり、筋肉内出血をおこしやすいことと比較すると、保因者の出血は、月経が重かったり、歯ぐきから出血したり、打ち身であざができやすいというような症状が多いようです。
ただし、出産や手術の時のように身体に侵襲をうける場合には、保因者の女性は出血が止まりにくくなる状況になります。このような時には必ず事前に医師や医療者に相談し、止血をするための準備をして、分娩や手術に臨むことが大事です。歯を抜く時なども、出血した時のための準備について、あらかじめ医師に相談することが大事です。
4)保因者のライフステージにおける相談について
はばたき福祉事業団では患者さんや保因者のライフステージにおける相談を受けています。保因者の結婚や挙児に関する相談は、大きく分けて直接ご本人からとご両親から受ける場合があります。
今回のようにご両親、特に血友病の父の立場の方のお話を伺う中では、血友病や遺伝のとらえ方は、その方の年代や血友病治療歴、生活状況が大きく影響していると感じています。
現在、血友病の治療は目覚ましく進歩しており、それに伴って生活の質も向上しています。特に最近の血友病の子どもたちは体育の授業にも参加し、スポーツも推奨されています。
その現状をまずお伝えし、医療的な説明が必要な場合は主治医へ、また血友病のお子さんの様子をお知りになりたい場合は患者会を紹介しています。多くの方は現状を知ること、同じ立場の方の話を聞くことで前向きな気持ちになっているようです。
一方、保因者であるお子さんは、父をはじめ家族の血友病に対する考え方に影響されると感じていますので、より正確な現状を家族全体へお伝えすることが重要だと考えています。
はばたき福祉事業団や各患者会に血友病の相談窓口が設けられています。それぞれホームページもございますが、お問い合わせいただければ、はばたき福祉事業団をご紹介します。