研究のご紹介
一覧はこちら新規改変AAVベクターAAV.GT5を用いた血友病遺伝子治療に対する大動物を用いた検討
血友病Bは血液凝固IX因子が遺伝的に欠損する疾患です。血液を固める凝固因子が血中に不足するために、重症の患者では未治療の場合に関節出血を繰り返し、血友病関節症と呼ばれる関節障害をきたします。そのため、定期的に凝固因子製剤の投与を小児期から継続することが一般的です。繰り返す注射の必要性が患者さんの負担になることは想像に難しくありません。そこで現在は、1回の治療で永続的に治療効果が期待できるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる遺伝子治療法の開発が進み、実際に欧米で承認された製剤も出てきています。
自治医科大学の研究グループは、ブタやカニクイザルなどの大動物を用いて、新しい改変AAVベクターAAV.GT5の血友病B遺伝子治療への応用を検討しました。AAV.GT5は肝臓細胞への遺伝子導入効率が高いため、肝の近傍の血管からベクターを投与すると、低いベクター用量で効果的な肝臓への遺伝子導入ができることがわかりました。通常AAVベクター投与後の静脈投与後には、ウイルスベクターに対する中和抗体が生じ、再投与ができません。この研究では、一部のカニクイザルではAAV.GT5投与後の中和抗体発生が認められませんでした。また、他のAAVベクター投与後にAAV.GT5への中和抗体が生じないブタに関しては、AAV.GT5を用いたベクター再投与が可能でした。以上より、効果が減弱した際などに遺伝子治療薬の再投与などを考慮すると一つの疾患に対して複数の種類のAAVベクター製剤を用意することも重要と考えられます。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2329050123001304