研究内容01
一覧はこちら軽症・中等症血友病、および保因者女性の臨床解析、ガイドラインへの応用(01)
軽症・中等症血友病患者は、重症患者に比べて出血回数は少なく、関節症をもつ患者の比率も低いとされてきました。日本血栓止血学会の「インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン」2013年改訂版には、重症患者には積極的に定期補充療法が勧められてきていますが、軽症・中等症患者に対する定期補充療法の記述はありません。定期補充をしていない患者において、重症度別に出血回数をみますと、明らかに、重症型>中等症型>軽症型といった傾向がみられますが、その一方で、定期補充をすでに行なっている重症患者では、中等症患者より出血回数が少ない傾向がみられ、かえって定期補充によって出血回数が減少した重症患者よりも軽症・中等症患者の関節症の悪化が懸念されてきています。女性の血友病保因者は血友病を発症しないとされ、その出血傾向は過小評価されています。不慮の事故や大手術時には軽症血友病と同様の止血管理が必要となる場合がありますし、月経や不正出血などの日常的な出血のためにQOLの低下を余儀なくされている保因者も少なくありません。これらの血友病の軽症・中等症患者と保因者を調査・研究することによって、凝固因子活性レベルに応じた治療強度や日常生活における運動強度などの注意点を含め管理指針作成し、患者や医療者に示していくのが本研究です。
何故この研究をするの?
軽症・中等症患者と保因者女性の治療と生活指針を示していく必要性
これまでは、定期補充療法の目的は「定期的に凝固因子を補充することで重症の患者を中等症〜軽症の状態にして出血頻度を減らし、血友病性関節症の発症を防ぐ」とされ、軽症〜中等症患者に対する定期補充療法の必要性の議論がされてきていませんでした。
軽症・中等症型患者さんの中には、医療との繋がりが疎になってしまい不十分な治療で症状を悪化させQOL(生活の質)が低くなってしまっている方がいらっしゃいます。血友病患者の平均余命が健常者と変わらなくなりつつある現在、軽症・中等症患者が青年期以降に関節症が悪化し手術療法が必要になる例もみられています。また、女性の血友病保因者の出血傾向は過小評価されてきましたが、不慮の事故や大手術時には軽症血友病と同様の止血管理が必要となる場合もあり、月経や不正出血などの日常的な出血のためにQOLの低下を余儀なくされている保因者も少なくありません。最近になって、日本産婦人科・新生児血液学会が「エキスパートの意見に基づく血友病周産期管理指針 2016 年版」を公表しましたが、出産に際しては、母児両者への配慮が必要で、母体に対しては分娩後異常出血への注意が必要となります。それ以外には日常における血友病保因者の健康管理に対する指針などはありません。これらの血友病の軽症・中等症患者と保因者を調査・研究し、凝固因子活性レベルに応じた治療強度や日常生活における運動強度などの注意点を含め管理指針を示す必要があります。血友病の軽症・中等症患者と保因者の臨床症状を調査解析することが、本研究班で開発する新規血友病治療によって出血症状を抑制するための目標を予測・推計することにも役立ちます。
研究がどのように役立つの?
出血症状を抑制するための目標を予測・推計できる
中等症(1〜5%)や軽症(5%以上)でも、運動、外傷に伴い出血を引き起こすことがあり、時には重度の関節症のために外科的処置が必要となる患者もいます。また、治療の改善に伴い、血友病患者の活動レベルが活発となることで、求められる凝固因子活性値が以前よりも高くなってきています。女性保因者は実際の血中凝固因子活性は低値から正常まで幅広い分布をとります。凝固因子が低値の保因者は軽症血友病のように月経、外傷、出産の際に出血トラブルを引き起こすこともあり、止血能の評価と正確な診断、止血に必要な凝固因子レベルを決定する必要があります。半減期延長型製剤や将来の遺伝子治療は、重症例のトラフ凝固因子活性(※)を中等症・軽症・保因者のレベルまで改善します。中等症・軽症血友病患者や保因者の出血症状と止血機能との関連を分析することにより、出血を最小限とする新たな血友病治療の目標値が設定できます。個々の患者の活動強度から投与時間や量を設定する個別化医療も推奨されてきていますが、中等症・軽症、保因者のデータを詳細に分析することによって、活動強度別の必要な凝固因子活性値を推定することもできると考えられます。本分担研究では、中等症や軽症、保因者を対象とした横断的臨床研究により、凝固因子活性と出血傾向の程度、生活強度などのデータを解析することによって。治療や日常生活の注意点などの管理指針を示し、適正な凝固因子使用を推進するための指針作成に応用するとともに、本研究班で開発する新規血友病治療が出血症状を抑制するための目標を予測・推計します。
- ※トラフ凝固因子活性とは
- トラフ凝固因子活性とは、凝固因子製剤を投与した際に次の投与をする直前となる凝固因子活性の最低値のことです。逆にピーク凝固因子活性とは、投与直後に最も高くなる凝固因子活性を示します。
研究開発の内容・方法
1年度目(平成 30年度)は、中等症・軽症血友病患者の管理指針、並びに新規血友病治療の目標を予測・推計するために、保因者を対象とした横断研究をします。軽症・中等症血友病の出血傾向・臨床症状については分担研究者である嶋博士のJHOS研究(※)とデータを共有することで患者登録を推進します。研究施設・研究協力者を選定し、運営委員会を始動していきます。運営委員会にて研究対象の範囲、検討項目、解析目標などを具体化し、その詳細を決定した上で研究計画書を作成し、中心施設および研究協力施設の倫理委審査員会の承認を受け、各施設間で必要な契約を交わします。
- ※JHOS研究とは
- これまで国内の血友病患者さんを対象として、血友病の原因となる凝固因子の遺伝子検査や患者さんの状況から、どのような人にインヒビターの発生が多いかを検討する研究をおこなってきました(JHIS研究)。JHOS研究とは、これまでのJHISの調査項目に、将来的に継続して患者さんの状態を把握できる項目を加えることで、国内の血友病患者さんの今後の診療に役立つ情報を解析する研究です。