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一覧はこちらとある保因者の話 (3話)
病院から帰る電車の中は、母は何も言わなかった。
でも、何度か私の方を見ているのがわかった。
何か話しかけようとしているような、それでも言葉が見つからないような、そんな空気だった。
私も何を話せばいいのかわからなかった。
「お腹空いたね」とか、「今日の夕飯は何?」とか、いつもなら何気なく話せることも、
その日は口から出てこなかった。
家に帰ると、私はそのまま自分の部屋へ行った。
制服のままベッドに寝転ぶ。
天井を見つめながら、今日先生に言われたことを思い返していた。
血友病は遺伝する病気。
弟が血友病だから、私は保因者である可能性があること。
その確率は二分の一。
二分の一。
先生は確かにそう言った。
でも、その「二分の一」が何を意味するのか、高校生の私にはよくわからなかった。
私は病気じゃない。
毎日学校へ行っている。
友達と遊んで、テストの点数を気にして、恋愛の話をして笑っている。
そんな私が、どうして血友病と関係があるんだろう。
考えているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。
それから母は、あの日の話を自分からすることはなかった。
私も聞かなかった。
いや、聞きたくなかった。
だから何事もなかったように毎日を過ごしていた。
……というのは、少し違う。
本当は、頭の片隅にずっと残っていた。
「保因者」
「二分の一」
その二つの言葉だけが、時々ふっと顔を出す。
授業中。
お風呂に入っている時。
眠る前。
何の前触れもなく思い出してしまう。
二分の一って、どう考えればいいんだろう。
よく、「コップの水が半分入っている。それを『まだ半分ある』と思うか、『もう半分しかない』と思うかは考え方次第」なんて話を聞く。
でも、それはコップの水だから言えることだ。
私にとっての二分の一は、水じゃない。
『血友病の保因者かもしれない』
その可能性だった。
もし、本当に私が保因者だったら。
もし将来、結婚して子どもを持つことになったら。
その子にも関係してくるの?
まだ今の私に、結婚すらしてない私に、子どものことなんて考えられるはずがない。
想像できない未来が勝手に暗いものになっていく気がして、気持ちが重くなる。
考えても答えなんて出ないのに、考え始めると止まらなくなる。
でも一方で、こうも思う。
弟は確かに大変そうだ。
定期的に病院へ通って、家では自己注射もしている。
小さい頃にやりたかったサッカーは諦めたと聞いた。
その時は少しかわいそうだなと思った。
でも今は軽音部に入って、仲間と楽しそうに音楽をやっている。
文化祭の話をする時なんて、私よりずっと楽しそうなくらいだ。
病気はある。
制限もある。
それでも、ちゃんと笑って生活している。
だったら、私も今から必要以上に怖がらなくてもいいのかもしれない。
そう思う日もあれば、やっぱり「二分の一」という言葉が頭をよぎって落ち込む日もある。
私はまだ、この気持ちをどう整理すればいいのかわからなかった。