血友病とは?

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「血友病患者かどうかは関係ない。関係構築こそが重要」〜結婚して3人のお子様を持つ血友病患者の後藤さんにインタビューしました。

 

血友病家系女性・保因者のための情報サイト「生きる力を育てましょう」を運営する社会福祉法人はばたき福祉事業団です。

これまで当コラムでは、血友病保因者女性のお話を伺うことが多かったのですが、今回は3人のお子様をもつ血友病患者の後藤さん(男性)にインタビューをしました。幼少期、学校生活、親からの自立、そして就職や結婚などで自身が血友病であることがどのように影響したのか。後藤さんの視点で語ります。

周囲にはオープンにしていた小学校時代。自己注射は高校生から。

 

―幼少期はどのような生活をされていましたか?

私は地方の出身ですが、近くに血友病に明るい病院がなかったので、月に一回東京の病院に通っていました。治療としては今のように定期的な製剤の輸注ではなく、出血のたびに都度注射を打つような治療だったので、病院で製剤をある程度出していただき、日常生活の中で必要な時に母が注射を打っていました。

自分は重度の血友病患者なので、歩けないほどの内出血を起こすことはしょっちゅうありました。それが足首などであれば母が注射をして対処していましたが、股関節ともなると病院へ行って治療していました。昔は予防的に定期輸注をするのではなく、何かあった時に注射を打つような対症療法が主流だったので、何回も出血を繰り返しているうちに関節障害になってしまうケースもありました。とはいえ、今のように定期輸注が可能になっても、病院に通うことが物理的に難しいご家庭もあると思うので、まだまだ課題はあると思います。

―学校生活はどのようなものでしたか?

体育の時間は見学していたことが多かったです。学校側も事情を考慮して見学でも単位を取れるようにしてくれました。しかし、体育以外で特別なことも困ったこともなかったですね。おそらく小学校くらいから自分の病気のことはオープンにしていたと思います。先生だけではなく友だちも知っていました。病名まで知っていたかどうかはわかりませんが、血が止まりにくい病気だというように理解されていました。だからと言ってはなんですが、欠席することに抵抗もなかったので自分は病気を理由に結構休んでいました(笑)。サボっているわけではないのですが、無理して行くようなことはしなかったですね。いろいろな考えがあるかもしれませんが、私は血友病であることは言ったほうがいいと思っています。

―自己注射はどのようなタイミングではじめましたか?

自分の場合は高校生の途中からです。受験で東京の大学を目指していたので、一人暮らしを始めたら自分で注射を打たなければならないという必然がありました。おそらくそのようなきっかけがなかったら、もう少し遅かったと思います。必要に迫られて始めたという感じですね。

自己注射は簡単そうに見えますが、実は気を付けるべき点がたくさんあり、なかなか神経を使う作業です。エアーが入ったら大変なことになりますし、製剤を輸注する速度も一定に保ちながら5分くらいかけて入れていかなければならないなど、技術的に難しい部分もあります。また、鋭利な針を扱うという意味でも十分に注意しなければなりません。安全面も考え医療者からきちんと指導を受け開始することが大切だと思います。

東京で自立した大学生活。就職の際に血友病のことをどこまで伝えたのか

 

―大学生になり東京での一人暮らしが始まって、何か困ったことなどはありましたか?

正直困ったことはありませんでした。病院に関してもこれまで月に一回飛行機に乗って東京まで来ていたので、逆に通いやすくなったくらいです。その他の部分ではこれまでと変わらず出血時には自己注射で対処して、必要に応じて事前の輸注もしていたので、日常生活で困るようなことはなかったですね。さすがに実家の両親は心配していたと思いますが、自分から 日常的に情報共有をするなどフォローもしていました。

勤め始めてからは、2日に1回のペースで定期輸注を行っています。血友病の治療は進んできているので、今は1週間くらい効果が持続する製剤もあるようですが、新しいものは慎重に取り入れる性格なので、もう少し普及してから持続効果の高いものに切り替えようと思っています。

―就職の際に、先方の会社には自分が血友病だということを伝えましたか?

自分の場合は戦略的に、出す情報を選びながら段階を追って伝えていきました。この辺りは迷うところですよね。ただ、私は血友病の関係で足の可動域が狭いということもあり障害者手帳を持っていました。仮に営業職などに配属された場合、長時間外回りをやるようなことは不可能なので、血友病という病名はともかくとして足の障害のことだけは入社前に伝えていました。

血友病であると伝えたのは、入社後半年ほど経ってからになります。なぜそうしたかというと、いくつかの理由があります。入社時にあらかじめ伝えなかった理由は、入社して自分自身のパフォーマンスや、会社に貢献しようとする態度を示せる機会を得てから言いたかったからです。他方、しばらくして伝えた理由は、制度的なものになるのですが、自分は特定疾病療養受療証と東京都が実施している医療費助成制度(通称マル都)を受けておりまして、その手続きの関係で被保険者である会社に、いずれは伝えないといけなかったからです。

―その後、会社との関係は変わらなかったですか?

変わりませんでした。特に問題となるようなことはなかったです。半年勤める間に、少しは信頼関係ができていたのかもしれません。あと、会社がこちらが思ったほど血友病のことを気にしていなかったことも、理由の一つだったと思います。会社としては、実は血友病云々よりも、社会人として仕事上必要なコミュニケーションがとれるか否か、同じ目標や課題に一緒に取り組んでくれるのか否かの方が、よっぽど気にしていたようでした。会社が血友病について気にしていたのは、上司が勤怠管理や仕事の割り振りを行う際に必要となる情報の範囲くらいだったと思います。

お付き合い、そして結婚。その時相手の反応は?

 

―やがて出会いがあり、お付き合い期間を経て結婚となるわけですが、どのようにしてお相手には知らせていきましたか? その時のお相手の反応は?

自分は今、結婚10年目になります。未就学児の子どもが3人ほどおります。出会ってから3年ほどの交際期間を経て結婚することになりました。自分が保因者であることを言ったのは、付き合ってまもなくです。結婚のタイミングで言う人も多いと聞きますが、自分の場合は彼女と結婚を前提として真剣に交際していたので、そのようなタイミングで言うことにしました。

彼女とはすでに信頼関係も構築されていたので、血友病である自分を受け入れてくれて付き合いは変わらずに続きましたが、やはり今後結婚となって子どもを授かった場合、その子が女の子だとしたら保因者になることを心配していました。

しかし、結婚に際しては、誰でも少なからず何らかの事情を抱えてすることになるのではないでしょうか。それが私達においてはたまたま血友病だったわけで、生まれてくる子どもの心配こそありますが、血友病であることが結婚を阻む障壁ということにはならなかったですね。

―結婚に際してお相手のご両親にはどのように伝えましたか?

結婚のことを伝える前に彼女から両親には話をしていたようで、特別にどうこういうことはなかったですね。

―反対をされて破談になったという方の話も聞きますが……

それは縁がなかったか、あるいはそこまでの信頼関係を築けていなかったということではないでしょうか。難しい問題ですが、相手のご両親から反対されて破談になるようでしたら、仮に結婚できたとしても、何かあった時に乗り越えられないような気がします。今は血友病に対する理解も広まってきているので、昔ほど病気に対してネガテイブなイメージがないと思いますが、そんな中でも親から反対され、結婚相手と一緒に協力して根気強く親族間の意見を調節する機会に恵まれないようでしたら、縁がなかったと次を探す方が幸せになれるのではないかと私などは思います。

結婚の先には、家事配分、家づくり、子供を持つ/持たない、子供の育児・教育、仕事や収入の変化、突然の病気、親の介護など、夫婦で乗り越えるべき様々なものが押し寄せてきますしね。

血友病患者、血友病保因者のお子様を持つお母様へ

 

―お子様が3人いらっしゃるとのことですが、どのようにケアしていらっしゃいますか?

未就学児の男女の子どもが3人います。生まれてくる子どもが保因者かどうかということは気にしました。

生まれてすぐは血液検査もできないので、時期がきたら凝固活性検査をしました。幸い今の所みんな健常者と変わらない数値が出ているので、血友病の遺伝子を持っていることにはなりますが、健常者と変わらない生活を送ることができています。

―血友病患者、血友病保因者のお子様をもつお母様にメッセージをお願いします

お母様自身が血友病保因者、あるいは配偶者が血友病患者だった場合、生まれてくる子どもが血友病患者や血友病保因者になる可能性があることは事実です。親は生まれてくる子どもに対して絶対的な責任がありますし、子どもの幸せを願うのは当然のことなので、保因者となる可能性のある子どもを持つことに対し、迷われたり、戸惑われたりする方がいらっしゃることは大変理解できます。

しかし、今は日進月歩で血友病の治療が進んでいるので、例え血友病であっても適切な治療をしていれば健常者と遜色のない生活を送ることができます。そして何より、子どもは思っている以上に強いものです。例え保因者や血友病として生まれてきたとしても、本人はそれを柔軟に受け入れて、自分の中で折り合いをつけて、タフに生きていくのではないでしょうか。親の迷いは、子供が吹き飛ばしてくれることがありますし、その時の親の感じる嬉しさは本当に言葉にはならないものだと思います。また、子供にとって病気は、障害ではなく日常の一面なのです。親が思っている以上に子どもは自身の病気のことを気にしていないこともあります。親が必要以上にネガティブなものとして血友病を捉える必要もないと思います。これから子どもを持とうと考えているに親御さんとしても、すでにお子様が血友病患者や保因者というお親御さんにしても、病気のことを良くも悪くも特別なこととして考えずに、その子の数ある側面の一部として考えても良いのではないでしょうか。